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『 電車男 』 研究
ドラマ『電車男』は、とても面白いテレビ番組でした。私自身がオタクなので、その内容に共感するところが多かったからだと思います。特に心を捕まれたのは、オープニングのアニメーションが、『DAICONWオープニングアニメ』のオマージュだったことです。ELOの曲が始まった瞬間に思わず大声を上げてしまいました。ドラマは細部まで作り込まれていて、面白さを語ればきりがありません。
ドラマをもっと理解するために原作本『電車男』を読みました。印象は、「ドラマと同じだ・・・」です。ドラマは原作本を尊重し、良いところをとても丁寧に描いています。しかし、テレビドラマは全13話にすることが基本です。そのための工夫、物語の再構成が必要となります。ドラマと原作本を比較研究することは、テレビ番組制作者の発想を理解することになります。私なりの考察も加えて『電車男』を研究したいと思います。
全ての写真は、2005年10月9日にしました。
<日時について>
ドラマ『電車男』は、2005年7月7日から9月22日までの3ヶ月間の物語、7月7日七夕が電車男の誕生日であり、エルメスとの出会いの日としているところが良いです。実際のコミケ開催期間にもあてはまります。
原作本『電車男』は、2004年3月14日から5月16日までのインターネット上の2チャンネルの掲示板に書き込まれたものを本にまとめたものです。
<場所について>
ドラマは、秋葉原の描写がとても多いです。秋葉原文化が主役と言ってもいいほどです。エルメスは、JR中央線沿い、吉祥寺駅から徒歩で通える距離に住んでいます。
電車男は、さらに郊外という設定。
原作本での電車男は、京浜東北線の沿線に住んでいるとあります。住所が特定されるような書き込みはありません。
<人物について>
原作本に登場する人物は、不特定多数のネットの住人達、電車男、エルメス、エルメスの友人、エルメスの母くらいです。
ドラマは、大人数です。電車男、電車男の家族、オタク友人達、会社の人達、近所の小学生達、エルメス、エルメスの家族、友人達、元恋人、恋敵、不特定多数のネットの住人達、さらにその関係者。ドラマでは人物を多くし、話を膨らませなければ、全11話の長時間は持たないのです。
氏名にも工夫があります。エルメスの「青山」という名は、地名の「青山」を連想させ高級感を出しています。電車男の「山田」という名は、「山田太郎」などのいわゆる一般人の名という印象があります。
主人公の見た目の違いにも工夫があります。原作本の電車男は、身長172p、体重68sとあります。ドラマのように小柄ではありません。原作本のエルメスは、小柄です。
p292のキスする場面では、背伸びをしてもみあげに届く身長差です。
原作本において、エルメスの性格は準オタクであると書かれているのも意外です。
<各話の構成について>
ドラマは、長時間のため、原作にないエピソードが多く含まれています。主人公の周辺人物のエピソードは多すぎるために省略しますが、電車男とエルメスの関係だけでも多くの追加エピソードがあります。以下は、ドラマのあらすじです。pは、原作本のページを示しています。*は、原作にないエピソードです。
第1話
・秋葉原、電車男、エルメスの紹介説明
・電車内で酔っぱらいの爺さんが女性に絡み、電車男がそれを止めさせる。p7
・ネット上の掲示板に報告する。
・会社でつらい日々を過ごす。 *
・女性からお礼の品、エルメスのカップが送られてくる。p14
・携帯電話に連絡するかどうか悩む。p15
・エルメスが携帯電話に手を伸ばす。 *
〜秘密の場所〜
万世橋交差点にある半田ビルの屋上です。
屋上には行かれませんでした。
第2話
・携帯電話がつながらず不安になる。
・電話がつながり食事の約束を取り付ける。p35
・デートのために外見を変える。p57
・デート当日、待ち合わせ場所にエルメス登場。p70
第3話
・初デート p70
・不安になる。
・次のデートの約束を取り付ける。p87
・次のデートには、エルメスの友人が同席することになる。p95
・不安になる。
・デート当日、待ち合わせの場所にオタクの正体を知るエルメスの友人が登場。 *
第4話
・エルメスの友人は、電車男の正体に気がつかない。 *
・エルメスの失恋した過去の出来事の説明 *
・次のデートでサーフィンを見せることになり、困り果てる。 *
・サーフィンの練習を始めるが、出来ない。 *
・ライバル、青年実業家桜井登場。 *
・デート当日、サーフィンが出来ないこと、嘘をついたことを謝る。 *
・エルメスは許す。 *
・掲示板を見て電車男の正体に気づく陣釜 *
第5話
・エルメスにストーカーがつきまとっているらしい。 * 原作本では痴漢に遭う
・合コンをする。 *
・ストーカーが心配で、エルメスを家まで送る。p157 ?
・ストーカー対策に専念する。 * 原作本では痴漢対策
・ストーカーの魔の手がエルメスに忍び寄る。 *
・ストーカーを捕まえて事件を解決する。 *
・愛情の深まっていく二人。 *
第6話
・エルメスの実家に来るように誘われる。p167
・実家を訪れたが、告白する勇気、タイミングがない。p177
・次のデートの約束をする。 *
・友人のためにコミケに行かなければならなくなる。 *
・仕事だと嘘をついて、エルメスのデートを断る。 p226
・レストランで偶然、エルメスと出会う。 *
・次のデートで告白すると宣言する。p218
・コミケ当日、参加申し込み書を無くす。 *
・見つかった申込書をエルメスがコミケ会場まで持参する。 *
・エルメスは、嘘をつかれてデートを断られたことに傷つく。 *
第7話
・エルメスは別れを告げる。*
・落ち込む電車男 *
・レストランで再会し、謝るが、断られる。 *
・再び交際するために、オタクを止める努力をする。 *
・ゲームやフィギュアを処分する。 *
・エルメスの誕生日にプレゼントがあると、一方的な連絡をする。 *
・誕生日当日、約束の時間になってもエルメスは現れない。 *
・雨が降る中、何時間も待ち続ける。 *
・エルメスは現れ、言葉を交わすが、電車男は疲労で倒れる。 *
第8話
・電車男は入院してしまう。 *
・掲示板では、電車男の書き込みが無く、暇つぶしのニワトリゲームが流行る。p127
・退院した電車男はオタクであることをエルメスに告げる決意をする。 *
・連絡が取れずに困り果てる。 *
・エルメスは、電車男への想いを募らせ、電車男の自宅へ突然訪れる。 *
・電車男は、オタクであることを告白する。 *
・仲直りの印にフィギュアがプレゼントされる。 *
第9話
・秋葉原でパソコン購入ついでのデートをすることになる。 p258 ?
・デート当日、ビルの屋上が秘密の場所だと教える。 *
・しかし、勇気が無く告白出来ない。
・すっかり仲良くなり、パソコン設置のため自宅へ招待される。
・さらにエルメスの家族と食事することになる。 *
・食事中、エルメスの母と父が離婚することでもめる。 *
・電車男の助言により、離婚問題が解決する。 *
・エルメスに掲示板の存在を知られたら破局してしまうと悩む。
・エルメスは掲示板の存在を知り、傷つく。 *
・電車男は、掲示板に書き込んでいた事実を告げに行く。
〜万世橋〜
デートで手をつなぐ場所
第10話
・エルメスの家に到着したところ、エルメスの弟に殴られる。 *
・エルメスには、別れを告げられる。 *
・傷心し、掲示板からも離れる。 *
・エルメスは海外出張する。
・掲示板の住人たちは、電車男に再び勇気を出してもらうため、秋葉原で掲示板に戻 るように呼びかける。 *
・ふたたび掲示板に復帰し、ネットの住人たちから励まされる。 *
・掲示板に、エルメスに向けてのメッセージを書き込む。 *
・秘密の場所で待ち続けるので来て欲しいとエルメスに電話する。 *
・エルメスは掲示板を読み始める。 *
第11話 最終回
・エルメスは掲示板を読み、自分に対する愛情の深さに感激する。p353
・エルメスは秘密の場所へ向かうが、電車男と行き違いになり、会えない。 *
・必死に探し合う二人は、秋葉原駅のホームで再会する。 *
・秘密の場所にて、告白し合う。くちづけする。p271
・夜の公園にて、恋人同士になる。p298
・ネットの住人達に報告したところ、掲示板からの卒業を告げられる。p334
・1000レス目に向けて最後の書き込みが交わされる。p349
・住人達から祝福され電車男とエルメスは旅立つ。
第12話 もう一つの最終回スペシャル
この回は、変則的な総集編です。本編でカットされたシーンと新たに追加撮影されたシーンを合わせて、主人公以外の人物の物語を作っています。よってドラマ『電車男』の最終回ではありません。
ドラマで重要なことは、登場人物をいかに動かすかです。原作本をそのまま映像化してしまうと、部屋の中でせっせとパソコンのキーを打つ男達ばかりになってしまいます。そうならないために派手な動きが必要です。サーフィン、痴漢ではなくストーカーに襲われる、コミケ参加、雨の中で待つ、秋葉原での掲示板へ戻れの呼びかけなどです。
感情の起伏も重要です。主人公の気持ちの高揚、落ち込みは、観ている側の感情移入を誘います。そのためには、主人公がふられる必要があります。コミケでふられる、掲示板がばれてふられるのエピソードです。これらは、原作本には全くありません。
原作本の電車男は、不安を感じることはあっても、ふられることはありません。はっきり言ってモテモテです。
連続ドラマの場合、次回への期待感を持たせて各話を終わらせる必要があります。各回とても良くできています。あっと思ったところでサンボマスターのエンディング曲が流れます。
ドラマの制作会議、脚本の検討段階では、計算して、全11回分の構成をしていると思います。原作本のエピソードを区切り、短冊にし、11分割する。そして過不足を検討する。原作本では、告白後に掲示板を知らせているのに対して、ドラマでは、掲示板を知らせてから告白しています。ドラマの二人の関係性、付いたり離れたりのアップダウンは、計算し尽くされています。
第1話 → ゼロ (出会い)
第2話 ↑ アップ (デートに向けて)
第3話 ↑ アップ (初デート)
第4話 ↓ ダウン しかし↑ アップ (サーフィン)
第5話 ↑ アップ (ストーカー)
第6話 ↓ ダウン (コミケ)
第7話 ↓ ダウン (脱オタ)
第8話 ↑ アップ (オタク告白)
第9話 ↑ アップ さらに↓ ダウン (掲示板ばれ)
第10話↓ ダウン (傷心)
第11話↑ アップ (大団円)
ドラマ全体の構成は、徐々に向上するが下降、しかし向上の繰り返しです。
<権利関係の工夫について>
ドラマ『電車男』は、いずれDVDとして商品化されることでしょう。そのためには他の会社の権利を侵害しないように撮影時から配慮がされています。
・エンディングでサンボマスターが歌うシーンは、実際の秋葉原駅で撮影されていますが、駅の看板広告がデジタル処理で消されています。主に黄色で塗りつぶされています。
秋葉原の裏通りには、
サンボという牛丼専門店があります。→
サンボマスターってこの牛丼店の主人?
黒人奴隷の御主人様?
・ドラマでのアニメのニワトリが動いてしゃべるというゲームは、原作本では、実在するアメリカのサイト。http://www.subservientchicken.com/ ニワトリに扮したおじさんが動きます。
・電車男が愛するアニメは、ドラマでは『月面兎兵器ミーナ』となっていますが、原作本では『ふたりはプリキュア』です。フジテレビとしては、テレビ朝日で放送中のアニメを宣伝するわけにはいかなかったのでしょう。よってオリジナルで架空のアニメを創作したと思われます。『ケロロ軍曹』は、ドラマも原作も共通ですが、権利関係はどうなっているのでしょうか? ガンダム、エヴァンゲリオンは契約込み?
・秋葉原ロケは、石丸電気が中心です。「電車男掲示板に戻ってきてくれ」の巨大看板は、提供ISHIMARUとなっていて10月9日現在でも石丸電気本店の前に掲げてあります。
・原作本のエルメスは「ムーミン」に似ているらしいのですが、ドラマでは無視しています。
<根本的な疑問について>
ドラマ『電車男』、原作本『電車男』は、両方とも素晴らしい作品でした。ドラマの作られ方を考えるのも楽しい作業でした。しかし、どうしても考えてしまうことがあります。「これって本当の話?」という疑問です。2チャンネル掲示板に実際に書き込まれたということは疑っていませんが、あらかじめ新潮社が作家と打ち合わせて、掲示板を利用した作品を発表しようと計画していたとしたら、可能だと思います。掲示板に書き込み、話題になることは、宣伝活動になります。先見性のある編集者と作家なら出来ると思います。
疑問は残りますが、作品を楽しんだという事実は変わりません。これからのネット社会において、この程度の嘘を許してあげる心の広さは必要なのかもしれません。
2005年10月10日 編集長 ・・・疲れた・・・ _| ̄|○