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      Ginrou

     

                 赤木 紫ノ葉

        

君は、幽霊船は存在すると思う? 

少年に問い掛けるのは、ホコリをかぶった古い本だった。

少年はカビ臭い図書館でその本を、ゆっくりと開けた。

その本は、ギィッと音を立てて重い表紙を開けた。

その本は静かに語り始める・・・

    

      --------これは、昔々のとある海のお話--------

  仮想― 十四世紀  

この頃、カリブ海の海賊達の間で変わった噂が流れていた。

それは、とある海賊船の噂だった。

時間が経つにつれ、その噂は海上にいる海賊達で知らない者はいないと、

言われる程に有名な噂となった。

真夜中の嵐の後、とある海賊船は霧の深い海原に出ていた。

船は濃い霧のせいで進路がわからず、海を彷徨っていた。

その時、見張りの一人が目の前から向かってくる一隻の船の陰を見つけた。

その船は自分達と同じ、海賊船の様だった。

見張りの男が、船の頭らしき者に連絡をとると、

「皆やー久しぶりの狩だぁ大砲を構えろ!」

その頭らしき男は、そう叫んだ。

皆はオォー!と勢い良く叫ぶように、返事をした。

狩とはきっと、相手の船を襲い食料や、貴金属を奪う事だろう。

最初は薄い陰だった前の船も、船の頭が見える程に近づいていた。

「構え―!・・・ん?何だ、この音楽は?」

その時、前の船からまるで交響楽団が、演奏しているかの様な音楽が聞こえた。

深い哀しみを、歌っているかの様のメロディだった。

その音楽で皆が静まり返っていると、前の船はとうとう姿を現した。

帆には銀狼の絵が描かれ、不思議な空気をかもし出していた。

「ボーッとしている場合じゃないぞ!構えー!」

船長が叫ぶと、手下達は武器や大きな大砲を構えた。

「遅いよ。船長さん。」

聞いた事の無い男の声に、恐れを感じて船長はゆっくりと振り返った。

そこには、銀色の髪に血のように紅い片目を持った青年が、立っていた。

「お、お前はどこのモンだ!?」

船長はなぜか、おどおどとしていた。それもそのはずだ。

後ろの青年の威圧感は量りしれないものだった。

「ああ、俺はここの前の船から来た者だ。」

その言葉を聞いたと同時に船長は、右ポケットから銃を引き抜いた。

だが銃を構えた途端、青年は船長の手首を掴んだ。

「よけいな事しない方がいいと思うよ。もうすぐほかのヤツ等も来る。」

一瞬の静寂が流れた。どの位の時が流れただろうか・・・・

この後の一瞬で、あまりにも酷い戦いが行われることなど誰が予想した

だろう・・。

  

 月明かりのもと,青年は顔にかかった返り血を手の甲で拭い、そっと呟く――

  「また、俺の生け贄では無かった・・・」と――――

夜明けを知らせる日の出の時には、あの大人数の海賊達は真っ赤な

血の海となった船上で全滅していた。

 このあと、通りすがった海軍に船は拾われた。

だが、海賊船の乗組員のほとんどは、まるで地獄でも見たかの様な

恐ろしい顔をして死んでいた。

人数や船の大きさからして、それなりに大きな海賊だった。

その中で生きていたのはあの、船長と手下数名だった。

海軍のヤツ等は、あまりの残虐さに恐怖さえ覚えた。

生き残ったヤツは皆、口を揃えてこう言った。

「孤独な銀狼。」

海軍のヤツ等は、「誰がやったんだ?」と聞いたのに生き残りの

ヤツ等はこうとしか答えなかった。

海軍はすっかり首をかしげてしまった。

生き残りの者達は、海軍の船で入院すると同時に御用となった。

その後、彼等はすぐに息を引き取ることとなる。

  

 あの事件から半年後、このカリブの海で「孤高の銀狼」を

 知らない者は居なくなった。

 彼等は恐ろしい海賊だ、と皆口を揃えて言った。

 彼は探している。その身体に刻まれた呪いを解くために必要な

 最高の生け贄を・・

 もし、嵐の去った 夜の海の 濃い霧の中で あのメロディを聞いたのなら・・・

   

  それは、銀狼が迎えに来たのかもしれません・・・・・

                   黄泉の国へと手を引いて・・

                     最高の生け贄を手にするため・・

          

          終


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