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幸せの青い鳥を探す旅

〜 村祭りは大騒ぎ 〜

PN. 羽 舞 

 

プロローグ

  剣と魔法の名も無き世界。

 モンスターもいない、この平和な世界を旅する二人組がいた。

 幸せの青い鳥を探す魔法使い、フィナ=メイアーと無理やり旅に付き合わされることになった魔法 剣士、新涼 秋桜(しんりょう こすもす)である。

 この物語は、二人がある村に立ち寄ったところから始まる……

 

第一章              騒ぎの始まり

 

 あたし達がこの村に入ったのは、日が昇りかけている時だった。

 旅を始めてからもう三か月……、故郷が懐かしい。みんな、どうしているかな〜。

「幸せの青い鳥について、何か知りませんか?」

 近くにいた少女に、フィナがたずねた。

 この唐突な質問に、少女はどう答えたらよいのか分からないらしく、キョトンとしている。

 あたしは質問の解りにくかった部分をあわてて補足した。

「…ええっと、この辺に人を幸せにする生き物とかアイテムとか…、なんでもいいから何か話を聞いたことないかなあ?」

 少女は少し考えてから、

「…この村に『女神の瞳』っていう宝石があるけど」

と言って、手を差し出してきた。

「情報が欲しかったら、金を出せって言うことかしら?」

 少女がこくりと頷く。

「お断りよ。

 あんたみたいな子供が、一体どれだけの情報を持っているって言うのよ!!

 あたしは少し力を入れて、その手をはたいた。

 少女があっかんべ〜をしながら走り去って行くのを見て、

 あたしはフィナに「早く逃げるわよ!!」と声をかけた。

 前にも同じようなことがあって、その時は子供が呼んできた自警団に捕まりそうになるなど、大変だったのである。

 もう、面倒はこりごり………

「手遅れみたいですわ」

 フィナが微笑みながら表通りの方を指差した。

 五十人ほどのゴロツキが奇声を上げながら、こちらに向かってくるのが見えた。

 ……遅かったのね。

「てめえらか!!

 このドン=グランスレード様の娘を泣かせてくれた奴は!!

 リーダーとおぼしき男がドスのきいただみ声で怒鳴った。

 その男の後ろに、さっきの少女が半分見えるようにして隠れている。どう見ても、嘘泣きにしか見えない涙の跡をまだらに付けて、得意げにあたしを睨らんでいる。

「まあ。あなた方があの有名な、泣く子も黙るというグランスレ―ド・マフィアさんなのですか?」

「…あ、ああ。…まっ、詫び料として金貨400枚出すんだったら許してやらねえこともねえが……」

 フィナはどうして、こういつも間の抜けた質問をするのだろうか………?

 ま、こんな間の抜けた質問に真面目に答えているグランスレードもマフィアの風上にも置けない奴だとは思うけど……

 いずれにしても、

「噂ほどじゃないみたいね」

 …しまった!!口に出してしまった。

「…な、なめやがって!!このアマ、ブチ殺すぞ!!

 あたしの正直な感想に怒り狂ったゴロツキ達が襲いかかってきた。

 剣を振るうたびに、ゴロツキ達が一人、二人と倒れていく。もちろん、全員みね打ち。

 人殺しになる気なんて、あたしにはさらさら無い。

 フィナも風の魔法を駆使して、ゴロツキ達を気絶させていく。

「イッヒッヒッヒ…。これまでだな!!

 いつのまにか、ゴロツキ達があたしを取り囲んでいた。

 こんな奴らに使うのはもったいないけど、魔法を使うしかないみたいね。

「水の精霊よ。我が魔力の一部をもて水泡となり、我を囲みし者どもを倒したまえ」

 あたしの唱える呪文を聞いた水の精霊さんが、あたしの魔力の一部と交換に、いくつもの水泡を作ってくれた。

 あたしの回りに浮かんでいる、…キラキラしていて、とってもきれい……

 ―――パンッ!!パンッ!!パンッ!!―――

 大きな音を立てて突然、水泡が弾けた。

「痛てぇ!!痛てえよお〜」

 ゴロツキの一人が叫んだ。たかが水、されど水。油断は禁物、っていうことかしらね。

 あたしと同じく、そのきれいさに見とれていたゴロツキ達がバタバタと倒れていく。

 精霊さんのおかげで、あたしの方はかなり楽になった。さて、フィナは…?って、危ないじゃない!!

 刃物を持ったゴロツキが一人、フィナの背後に迫っているじゃないの。

「フィナ!!後ろ!!

 あたしは思いっきり叫んだ。

 フィナがはじかれたように後ろを振り向く。

 ……ダメ、間に合わない!!

 その時、物陰から突然出てきた男が、自分の身体を盾にして、フィナをかばった。

 そして、「鉄拳制裁!!」と叫けびながら、腹に刃物が突き刺さっているとは思えない力強さでゴロツキを殴った。

 殴られたゴロツキが向かいの家まで吹っ飛んで行く。……すごいのはわかったけど、あんた一体何者なのよっ!?……って、あれ!?

 見覚えがある!

 あたし達が旅を始める前に住んでいた町の食堂の店員さんだ。間違いない。

 名前は、確か………ジェラル=ギプソンって言ったけ。

 でも、なんで彼がここにいるの!?

 …あ、そうか。彼はフィナの大ファンだったから、ついてきちゃったってわけね。……って、あんたはストーカーかい!!

 ま、今回はおかげで助かったけど………

「大丈夫でしたか!?お怪我はありませんか?」

 ジェラルが心配そうにフィナを見た。フィナは町のアイドルだったのだ。

 あたしにしてみりゃ、腹に刃物を突き刺したままのあんたの方が、よっぽど心配なんですけど……

「…ギプソンさん?…なんでここにいるのですか?」

 フィナが微笑んだ。

「い、いやぁ〜、単なる偶然ですよ。い、急いでいるので、私はこれで……」

 腹に刺さったままの刃物をようやく抜くと、噴き出す血を気にする様子もなく、元気良すぎるぐらいに手を振って去って行った。

「偶然なんですって。秋桜さん」

 ………………。

 ま、いいか。どうせ、また来るんだろうし。

 そんなこんなで、あたし達はゴロツキのほとんどを倒してしまった。

「残ったのは、あんたひとり。さあ、どうする?」

 あたしは余裕をかまして、ゴロツキ達の親分であるグランスレードに言った。

「…ま、まだ、負けちゃいねえ!!

 グランスレードが腰に差している剣を抜いた。

「お楽しみのところ悪いのですけど、ここまでのようですわ。

 あれをご覧になって、秋桜さん」

 村の自警団とおぼしき一団が大挙してやってくるのが見えた。

「フィナ、逃げるわよ!!

 あたしは優雅に微笑んでいるフィナの手を引っ張り、一目散に走り出した。

 あたしの逃げ足は速い。

 

第二章  言わぬが花

 

「はあ、はあ、…ここまでくれば、もう大丈夫」

 けれども、あたしはその考えをすぐ捨てることにした。

 村の自警団である。村の中のことなら、彼らの方があたし達より、ずっと詳しいに決まっている。狭い路地裏に逃げ込んだからといって、安心は出来ない。

「どうしましょう?」

 フィナの声が心なしか弾んでいるように聞こえるのは、気のせい?。

「なんとか村の外に出れるといいんだけど……」

 村の出入り口全てが、自警団によって閉鎖されている可能性も十分ありえる。

 困ったことになってきたみたい…

 フィナは頼りにならないから、何か考えなくては………

「こっちだ。お嬢様がた」

 黒いフードをかぶった怪しい男があたし達を手招きしている。

 そして、「こっちに自警団も知らない道がありやす。あっしについてきてくだせい」と言うなり、スタスタと歩き始めた。

「誰!?どうして、そんな道を知っているの!?

 あたしは男を睨んだまま、剣の柄に手をかけた。

「あっしは、別に怪しいもんじゃないでやんす。

 ただ、お嬢様がたをお助けしたいだけで…」

 男の言うことを信じていいのかどうか、あたしは迷った。

「なぜ、私達を助けてくださいますの?

 理由をきちんとお話いただけるまでは、あなたを信用することなど出来ませんわ」

 あたしの迷いを知ってか知らずか(たぶん知らないのだろうけど)、フィナがおっとりとたずねた。

「説明している時間は無いようでやんす。さ、早くこっちへ」

 足音が近付いてくる。一人、二人、三人…………

 うかつにも、自警団がそこまで迫って来ていた。

「……信用するしかないってことね」

 あたしの言葉に、男が大きく頷いた。

 急かされるように、あたし達は男の後に続いた。

 

 抜け道を通って、あたし達はこぢんまりとした森にたどり着くことが出来た。

「……ここまで来ればもう安心でやんす。あっしの家まで案内しやす」

 男はフードをとると、休む間もなく出発しようとした。

「その前に、なんであんたがあたし達を助けてくれたのか、教えてくれない?」

 あたしは、ちゃんとした答えを聞くまで、ここを動くまいと決めた。

「『あんた』はよしてくだせえ。あっしには、ガラン=ブラウンという立派な名前がありやす。

 これでも村を追放されるまでは、村一番の剣士と呼ばれた男でやんす」

 男は誇らしげに胸を張った。

「だったら、こっちもお嬢様呼ばわりは止めてもらおうじゃないの。

 あたしは新涼 秋桜、あっちは相棒のフィナ=メイアー」

「…ほ、惚れやした。あっしをファンにしてくだせい!!

 へっ、…………………あたし?

「ちょっと待ったぁ〜!!

 そういうことは、フィナちゃんファンクラブ会長のこの私を通してからにしてもらおうか!!

 例のストーカー男、ジェラル=ギプソンの耳をつんざくような大声が森中に響いた。

「どこの誰だか知んねえが、なに勘違いしてやがる!!

 あっしは、この秋桜ちゃんのファンになりたいんでい!!

 意外な成り行きに、あたしはとまどった。

 こういうシチュエーションに、あたしは慣れていない。

 どうやら、それはフィナもジェラルも同じだったみたいで、気まずい沈黙が辺りを包んでいた。

「止めておけ!!

 突然、ジェラルが叫んだ。

「ファンになるなら、絶対フィナちゃんの方がいい。

 流れるようなプラチナブロンド、女神のような微笑み、しなやかなプロポーション、そして、気品溢れるその姿……。ああ、素晴らしい……。

 そこのがさつなチビ女とは月とすっぽんだぞ!!

 あたしはむかついてきた。

 そりゃ、フィナと大違いなのはあたしだって百も承知だけど、あんたにそこまで言われる筋合いは無い!!絶対、無い!!

 声のする方に近寄って、あたしは思いっきり拳を放った。

 木々の間からジェラルが転がり出て来るのを見て、あたしはここぞとばかりにジェラルの顔面めがけてカカト落としをお見舞いした。

 ジェラルは変なうめき声を上げると、そのまま気を失ってしまった。

「本人が気にしていることを言うからですわ」

 気絶しているジェラルに、女神のような微笑みを添えて、フィナが駄目を押す。

 ジェラル、あんたの大好きなフィナちゃんの微笑みが見られなくて残念だったわね〜

 

 あたし達はガランの家に向かっていた。

 当然だけど、ジェラルはそのままにして………

「全く、人の趣味にケチつけるたぁ、いい度胸だぜ」

「誰がチビだってのよ!!あのサイテー男」

 ガランとあたしは口々に文句を言って歩いていた。

「着きやしたぜ。秋桜の姉御」

 少し広くなったところに、あまり大きくない小屋がぽつんと建っていた。

 

「秋桜さん、『女神の瞳』を手に入れる方法はもう決まりましたの?」

「フィナ!!あんた、またあの村に戻るつもり!?

「もちろんですわ。あたし達の求めているものかもしれませんのよ」

 普段はそうでもないのだけど、『幸せの青い鳥』のことになると、フィナは絶対に譲らない。

「……あんたって奴は、いっつも、いっつも……!!

 それじゃあ、一番の問題は、どうやってあの村に潜入するかってことね……」

 仕方なく、あたしは考える。

 フィナはいつも言うだけ言っといて、自分で考えることをしない。

 お嬢様だから仕方ないと言えばそれまでだけど、ちょっとタチが悪いかも…!?

「そんなことなら心配いりやせんよ、秋桜の姉御」

「…………………?」

「変装するんですよ。変・装」

 ガランがおもむろにクローゼットを開けていく。

 あたしは中を見て、あ然とした。

 どこから見ても女物にしか見えない服が数え切れないほどたくさん、しかも、きれいにハンガーにかけられて納められているではないか……

―――ど、ど―したの、これ!?

「…全部、妹の形見なんです……」

 ガランが照れくさそうに、そのくせ目に涙なんか浮かべて、ぼそっとつぶいた。

「私には、どこかの制服のように見えますけど……」

 中の服を手にとって眺めていたフィナが、小首をかしげながらガランの方を振り向いた。

 これ全部制服って、あんたの妹って一体何者………!?

「す、すいやせん。嘘なんです。

 あっしには妹なんておりやせん。

 本当は、全部盗んだもんなんで………

 勘弁してくだせぇ…………」

 身体に似合わず、消え入りそうな声だ。

「ガラン!!あんたって………!!

 あたしは開いた口がふさがらない。

 こんな奴に姉御と言われても迷惑なだけだ。

 あんたに悪いこと聞いてしまったかも…、とほんの少しだけど反省していたあたしはなんだったの!?

 ただのお間抜けじゃないの!!ふざけるな――!!

 あたしは腹が立ってきた。

 こんな奴にほんの少しでも同情してしまったあたしに。そして、その原因を作ったガランに………

 あたしは思いっきり言ってやった。

「あんたが村を追放された理由って、これなんでしょ!!

 

第三章  大騒ぎの足音

 

 結局、あたし達は変装することにした。

 他に方法が思い浮かばなかったのだ。

「それじゃあ、あっしのコレクションを着てくださるんでやすね!!

 顔をはらしたガランが嬉しそうに叫んだ。

「それは却下。ぜ――ったい、無い!!

 そんなもん着て村に入ったら、余計怪しまれるだろ―が!!

 あたしは何のためらいも無く、即座に言い渡した。

「ううっ、そりゃあ、あんまりですぜ。秋桜の姉御!!

「まあ、まあ。漫才はそのぐらいにしといてくださいな。

 今一番重要なことは、どうやって変装するかってことですわ」

「…そうでやしたな」

 漫才しているつもりは無いんだけど……、そう見えるのかな?

「あたしは鎧を脱ぐよ。

 そうすれば、大分イメージ変わると思うし…

 フィナもその髪、編んじゃえばいいんじゃないかなあ〜?」

 あたしは鎧を脱いで、一つ深呼吸をした。

 駆け出しの冒険者が着るような厚手の服で、気にならないことも無いが、気にしてもしょうがない。

「あらあら、秋桜さんの髪も何とかしなければならないようですわ。

 それに、私のお洋服も必要ですわね」

 髪を顔の横で三つ編みにしていたフィナが、あたしを見るなり、にこりと微笑んだ。

 確かに、あたしの髪はギザギザしていて(自分で切っているのだから仕方ない)、かなり特徴がある。

 フィナの着ているローブも最高級の絹を使っていて、相当目立っている。

 かと言って、フィナも絶対あの制服だけは着たくないだろう。

「どうしようか………」

 その時、小屋の入り口が勢いよく開いた。

「メイアーさん、服ならここにいっぱいあります!!

 げっ!!ジェラルだ。

「ギプソンさん、そんなにたくさんの女物の服をどうしたのですか?」

 差し出された紙袋に中に、大量の女物の服がぎしっりと詰め込まれているのを見て、フィナが不思議そうにたずねた。

「たっ…、たまたまですよ!!

 さっきの村でバーゲンをしていたので、妹にどうかと思いまして………

 メイアーさんのお役に立つのなら、こんなに光栄なことはありません!!

 どうか、使ってください!!

 あんたに妹なんていないだろうが、このストーカー男!

 全く、どいつもこいつも………

 あたしがあきれてる間にも、フィナは慎重に服を選んでいく。

 どれもみな、フィナに似合いそうな服ばかりなのに、フィナは何も気が付かないんだろうか……?

「着替えるんなら、こっちの部屋を使ってくだせぇ」

 フィナは候補の服を数枚持って、ガランが指差した部屋に入り

「ありがとう」と言うと、いつものようににっこりと微笑んで扉を閉めた。

「…それじゃあ、次は秋桜の姉御の髪でやすな」

 ガランがポケットからはさみを取り出した。

「なっ、何する気………!!

 あたしは反射的に後ずさった。

「安心してくだせぇ。

 こう見えても、あっしの生家は床屋やんす。

 大船に乗ったつもりで、ドォ――ンと任しといてくだせい!!

 小屋に一つしかない椅子に、あたしを強引に座らせると、器用に髪を切り始めた。

 意外と鮮やかな手つき。これなら心配ないかも……

 あたしは気が緩んだのか、そのまま寝てしまったらしい。

「…終わりやしたぜ。秋桜の姉御」

 ガランの声に半分夢の中で頷いたあたしは、次の瞬間いっぺんに目が覚めてしまった。

なっ!!なんなのよ―――!!これは…」

 そこには信じられないものが映っていた。

「なにって、そんなに感激しないでくだせぇ。

 可愛いでやんす、秋桜の姉御!!

 そう、手渡された鏡の中には、今までに見たこともない、飛びっきり可愛いあたしが映っていた。

 フィナが綺麗系なのは知っていたけど、あたしが可愛い系だったなんて驚き…!?

 変に面映い気がして落ち着かない。

「秋桜さんも終わったようですわね」

 高級そうな薄いピンクの服に着替えたフィナが部屋から出て来た。

「…き、綺麗です、メイアーさん!!想像していた通りです!!

 興奮ぎみにジェラルが叫んだ。

「サイズがぴったりですのよ」

 フィナがジェラルに向かって優しく微笑んだ。

 やめとけばいいものを………

 ジェラルが感激に目をウルウルさせている。……キモい。

「…やっぱり、ここいらじゃあ、秋桜の姉御の桜色の髪は可愛すぎて、目立ってしょうがありやせんぜ」

 ガランは横目でチラッとジェラルを見て、あたしに話しかけてきた。

 可愛いというところをやけに強調しているように聞こえるのだけど、もしかして、ジェラルに対抗意識を燃やしてる…!?

 ま、確かに、あたしの髪はガランに言われるまでもなく、この地方ではかなり珍しい色をしている。

 でも、こればかりはどうしようもないしねえ……

「仕方ないでしょ、生まれつきなんだから」

「そんなあ〜。

 ちょっと、待っててくだせぇよ、秋桜の姉御。いいものがありやすから………」

 ガランがクローゼットの奥から、嬉しそうになにかを取り出してきた。

「これでやんす。ぜひ、使ってくだせえ!!

 あっしの一生のお願いでやんす!!

 そう言うなり、あたしの頭の上に長い黒髪のかつらを乗っけた。

「…ちょっ、ちょっと、ガラン、あんた何してるの!!

 これじゃあ、髪切った意味がないじゃないの!!

 あたしはかつらをどけようとしたが、ガランが押さえていて、びくとも動かない。

「いいえ、意味ならありやす!!

 可愛い秋桜の姉御が見れたんでやすから、意味は十分あったでやんすよ!!

 違う!そう言う意味じゃあ………

「まあ、いいや。ありがとう、ガラン」

 彼の必死な様子を見ていたら、なんだか可哀想になってきてしまった。

 それに、かつらをかぶっているあたしってのも、なかなか可愛い。あくまでも、鏡を見ての感想だけど……

「フィナ、行くわよ!!

 かつらはかぶったものの、このかつらがガランの物だということに、どうしても嫌悪感を感じずにはいられない。………だって、ガランの物だということは、ガランの趣味からして絶対かぶったに決まっているもの……

 考えるだけで、鳥肌が立ってくる!

 あたしはもう一度フィナに声をかけた。

「早く行くよ」

 ガランの顔を見ていたくなかった。………なのに、

「待ってくだせぇ、秋桜の姉御!!あっしも一緒に行きやす。

 村を追ン出されてから十数年、今じゃあ、あっしをあっしだとわかるやつぁ〜、誰もおりやせん」

「まあ、心強いですわ。ねえ、秋桜さん」

 フィナ、あんた、なんてこと言うの!

 ストーカー男は、あんたのジェラルだけで十分、これ以上……

 あたしはのどまで出かかった言葉を飲み込んだ。

 背中にジェラルの視線を感じる。なんか鬼気迫っていて恐い………

 人の気も知らずに、ガランが一人で騒いでいる。

「秋桜の姉御、サイコ〜!!

 ガランの馬鹿、脳天気………、もう勝手にして。

 

「……村の方がやけに明るい気がするけど」

 あたしはガランに聞いた。

「そういやあ、今日は村祭りの日でやんした。

 秋桜の姉御、チャンスかもしれやせんぜ!!

 確かにチャンスだった。

 今のあたし達は、どこから見ても、祭りを見に来た金持ちのお嬢様とその護衛にしか見えないだろう。

「…おかしいわね」

 村全体から殺気がしている。

「『女神の瞳』が、この先の広場の祭壇に捧げられて―――――」

 ガランの言葉に弾かれたように、フィナが走り出した。

 いつもなら、屋台でさんざん迷って、いらない物まで買っているくせに、今日はわき目も振らず、一目散に飛んで行く。

 それだけ早く、『女神の瞳』を見たいっていうことか………

「ガラン、ぼさっとしてないで行くよ!!

 あたしとガランも、フィナを追って走り出した。

 村の中にチンピラが多い気がするけど………?

 あたし達が広場に着くのを待っていたかのように、メガネをかけた神官が『女神の瞳』を祭壇の中央の像に捧げ始めた。

 ちょっと、待って!!やはり、何かがおかしい……

 あたしはフィナの腕をつかむと、あわてて木陰に隠れた。

 フィナも何かを感じているのか、一刻も早く手にとって見たいだろうに、黙ってあたしに従った。

「おっと、そこまでにしてもらおうか…」

 一人の男が壇上に立ちはだかった。

 

第四章  村祭りは大騒ぎ

 

「な、何者だ!!

「オレ様は、ドン=グランスレード。泣く子も黙る大マフィア様だ。

 おめえも、おれ様の名前ぐらい知っているだろ、ええ!!

 グランスレードが神官の鼻先に剣をちらつかせている。

「……マッ、マフィアのボスが何の用だ!!

 神官が震えているのが遠目でも分かる。

「おめえの持っている、その『女神の瞳』を頂きに来てやったのさ!!

「だっ、誰がキサマになんぞに……」

 『女神の瞳』をグランスレードの視線から隠すように、神官が抱え込んだ。

「けっ!!痛い目を見るのは、てめえだけじゃねえんだぜ」

 グランスレードが神官のメガネに剣先を押し当てながら、にやりと笑った。

 だけど、その目は笑っていない。

 笑うどころか、冷たい光を放っている。

「……ど、…どういうことですか?」

 やっと聞き取れるぐらいの小さな声だ。

 神官は恐怖のあまり、身体が凍りついてしまったように見える。

「…こういうことさ」

 グランスレードの合図と共に、手下達が懐から刃物を取り出した。

 広場のそこかしこで悲鳴が上がる。

「……わ、分かった!!渡す。渡すから、やめてくれ……………」

「はなっから、そういやぁ、こんなことにならずに済んだかもな!!

 神官の首が飛んだ。

 『女神の瞳』を持ったままの手が大きく弧を描く。

「…おっと、危ねえ。

 てめえら!!わかっているだろうな…」

 命令を待っていた手下達が、一斉に暴れ出した。

 すぐには殺そうとせず、村人達を追い掛け回して遊んでいる。

 面白がっているのだ。

 怒号と悲鳴に包まれた広場の真ん中で、グランスレードは落ち着き払って『女神の瞳』を懐にしまうと、たった今斬ったばかりの神官の真っ白い服で剣に付いた血をぬぐった。

 なんて奴らなんだろう………

 でも、あたし達の目的は『女神の瞳』なんだから、ここは我慢しなくては……

 握り締めていた剣の柄を、あたしはそっと離した。

 

「お待ちなさい!!

 あなたのような人達を、天が許しても、このあたくしが許しませんことよ!!

 ……へっ!その声は!?―――――まさか、まさかって、やっぱりフィナ!

 目の前の出来事に気を取られていたあたしは、フィナがいつ、いなくなったのかさえ気付いていなかった。

「ほう。てめえは、あん時の…!!

 それまで、ご機嫌だったグランスレードの顔が、怒りでみるみる真っ赤に変わっていく。

「今度こそ、勝負ですわ」

 フィナ、あんたねえ……

 あたしとガランは祭壇を目指して駆け出した。

「やるしかないようね!!だけど、殺しちゃダメだからね!!

 あたし達の邪魔をするチンピラを斬る。

「わかりやした!!秋桜の姉御」

 後に続くガランが剣を抜く。

 ぐずぐずしている暇は無かった。

 

 祭壇では、すでにフィナとグランスレードが闘っていた。

 けれども、接近戦は素人のフィナにグランスレードの攻撃がかわせるはずもなく、またしても、あのストーカー男のジェラルが身を盾にしてフィナを守っていた。

「ジェラル=ギプソン、この身に代えてもメイア―さんを命がけでお守りします!!

 

「…きりがありやせんな」

 ここまでで、あたしとガランは、すでに百を越えるチンピラを倒していた。

 もちろん、殺してはいない。(まあ、多少出血多量で死ぬ人はいるかもしれないけど、そうなったらそうなったで、ゴメンね)

「あっしが道を作りやす!!

「どうやって!?

「まかしといてくだせい!!

 やけに自信たっぷりだけど、何か策があるのだろうか?

「炎よ!!

 ガランが剣を振った。ガランの剣は、常人ではとても持ち上げられない代物だ。

 それを軽々と振るなんて………

 ガランの一振りが火球を生んだ。その火球が祭壇に向かって、一直線に飛んで行く。

 道が出来た。

「どうでい!!

 我が家のお宝、『火帝大剣』の力は!!

 ガランの剣って、魔道具だったんだ……

 魔道具って言うのは、古代人の作ったもので、ある状況下において、一定の効果を発揮する道具のこと。ガランの場合は、「炎よ」と言って剣を振ることにより火球を生む効果なのだろう。

 あたしはその火球を追いかけて走った。

 火球が祭壇を通り越し、民家を直撃した。炎が広がる。

 あたしは急いで、「水の精霊よ。かの所で燃えている炎を消したまえ!!」と唱えると、壇上のグランスレードめがけて、一気に階段を駆け上がった。

 

「風の精霊さん。あの人に強風を吹いてくださいな!!

 フィナの唱えた呪文によって、あたしの目の前にグランスレードが飛んで来た。

 グッド・タイミング、フィナ。

 あたしは、グランスレードの背に、渾身の力を込めて肘鉄を食らわした。

 グランスレードが思いっきり前につんのめる。

「秋桜さん、もっと早く来て下さらないと困りますわ」

 フィナが微笑む。

 血だらけになりながらも、今まで頑張っていたジェラルが、その横で荒い息を吐いている。

「ゴメン、ゴメン。これでも急いで来たんだけど、下の方でちょっと手間取っちゃって」

「…て、てめえ!!どうやって、ここに……!?

 立ち上がったグランスレードが、したたかに打ちつけたであろう鼻を押さえて、睨んでいる。

 あたしは言葉を発する代わりに、無言で広場に目をやった。

 グランスレードも気が付いたはずだ。ガランの持つ『火帝大剣』の威力に怯えた手下達が、散り散りになって広場から逃げ出していることに。

 そして今、最後の一人が、やみくもに刃物を振り回しながら暗がりに消えて行くのを…

「…ふっ。こんな小娘にこのグランスレード・マフィアが潰されるとはな…」

 グランスレードから殺気が消えた。

「『女神の瞳』をこっちに渡してもらおうじゃないの!!

「ほらよ」

 グランスレードが無造作に、『女神の瞳』を投げてよこした。

「結局、なんだ。おめえさん方もこれが目当てだったってわけか…」

 グランスレードの顔がわずかにほころんだように見えた。

「…オレの完敗だ。

 だがな、お嬢さん方、てめえの始末はてめえでつける。

 誰の指図も受けやしねえ。

 じゃあな………」

 ちょ、ちょっと待って!

 あたしの一瞬の隙をついて、グランスレードが自らの剣で自分の心臓を貫いた。

 甘かった。

 グランスレードから殺気が消えたので、すっかり油断していたのだ。

「あら、あら。秋桜さんのせいですからね。

 私は知りませんことよ」

 フィナに『女神の瞳』を渡して、天を仰ぐ。星が輝いていた……

 この辺一帯に名をとどろかせていたにしては、あっけない幕切れだったね…、グランスレード。

 気持ちは分からないこともないけど、なにもあたしの目の前で死ななくても……

 他にも場所はあるんだからさ〜。

 でも、見届けてあげるよ。あんたの最期を………

 

エピローグ

「『女神の瞳』は、結局ハズレだったわけでやんすね、秋桜の姉御」

 あの後、なんとか村を脱出したあたし達(あたし、フィナ、おまけのガラン)は、『女神の瞳』を前に溜め息をついていた。さんざん苦労した割には、全くのムダ骨だったのだから無理もない話だと思う。

 にもかかわらず、またしてもフィナが言い出した。

「秋桜さん、アルディスシティーで、一夜にして大金持ちになった人がいるそうですわ。その方が『幸せの青い鳥』を持っているかもしれませんから、早く行きましょう!!

 冗談じゃない!ここからアルディスシティーまで、どのぐらいあると思っているの!?

「用意はよくて?さあ。出発しますわよ!!

 フィナが足取り軽く歩き出した。

 仕方ない。あたしは『女神の瞳』を空高く放り上げると、勢いよく走り出した。

「行くよ、ガラン。ぼっさとしてると置いてくからね!!

「待ってくだせえよ〜、秋桜の姉御」

 落ちてきた『女神の瞳』をつかんで、ガランが追いかけてくる。

 あたしとフィナ、おまけのガラン。そして、近くにいるだろうあのストーカー男。

 今回もハズレだったけど、パーティだけはにぎやかになったね。

 めげずに頑張ろう。あたし達の旅は、まだまだ続くのだから………

 

 

あとがき

 どうもっ!!またまた登場の羽舞 果実ちゃんだよっ!!それじゃ、今回は『この小説ができるまで』と要望が多かった?作者のプロフィールを紹介しちゃおうっ!!

 

『この小説ができるまで』

 まず、私がファンタジー好きなのって、ずっと前に見たアニメ『魔法剣士レイアース』の影響だと思いますぅ。それに、この小説の元になったOVAもあるんですよぉ。題名は『秘境探検ファム&イーリー』っ!!そのDVD版の中で、すっごく気に入っているのが、「“勇者”の物語の場合ですと、作り手側・受け手側の両方が、ひとつの事件に明確な区切りを求めてしまいがちになる。そして新たな旅に出るためには、さらに大きな事件を要求してしまう。でも等身大のキャラクターだと、それがないんですよね。」っていうフレーズですっ!!それを参考にして、主人公が勇者じゃないこの作品を作ってみましたぁ。  <完>

 

『作者のプロフィール』

 ペンネーム:羽舞 果実(うまい かじつ)

 学年:中学3年生

 所在:東京都

 近頃ケーブルTVで見た作品 :『魔法剣士レイアース』

               :『機動戦艦ナデシコ』

 今後ケーブルTVで見たい作品:『瓶詰妖精』

 私の趣味、わかりまくりですねぇ〜。

 ただ今、続編を書いてる真っ最中です。また続編でお会いましょう!!


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