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〜 流れ落ちる雫 〜
作 花林糖
プロローグ
一人の人間が立っている。場所は何処だかわかない。
ただその人がすごく美しい
この世の者とは思えないほど・・・
そう神のような美しさ。
その人は何処を見ているか分からない虚ろな目だった。
第一章 夕焼けの空 全てのはじまり
「ジリリリーリ!!」
目覚まし時計がけたたましく鳴っている。
長谷川 菖 (ハセガワ ショウ)が目覚まし時計を止めた。
そうあれは菖の夢だったのだ。
「う〜。変な夢だ。うわっ 遅刻する!!!」
菖は制服に着替え、朝食をそこそこにに食べて急いで家を出ていった。
「なんだか今日は変な夢みたなぁ。」
どうやら今朝の夢が気になるようだ。
しかし菖はそんな事よりも学校に遅刻した時の
言い訳を考えることに頭が一杯だった
とにかく菖は走って学校に向かった。
そして授業を終え部活に出た。
やっと家に帰る頃には夕方になっていた。
「はぁ〜疲れた。先輩ったら俺ばっかに扱き使って・・・」
気分良くないそう菖は思った。
しかし菖が気分が良くないのはもう一つ訳があった。
自分たちの住んでいる東京周辺にある事件が起こっているのだ。
「連続無差別殺人事件」
そんな事件が起こっているのだ。しかも犯人は捕まっていない。
いつ犯人に狙われるか分からない。
だから菖は気分が良くないのだ。
「はぁ〜」
ため息をつくと公園に人が見えた。
菖は犯人じゃないかと思った。
しかもその公園の横を通らないと家には帰れない。
仕方なく菖は見つからないようにソロリソロリと歩いた。
「あっ・・・・」
菖はその人の姿を見て戸惑ってしまった。
その人は夢の中に出てきた人と全く同じなのだ。
思わずその人に見とれてしまった。
その人はすごく美しかった。
肌は透き通るように白く肩まで伸びた髪は真っ黒ではなく
少し栗色でその人の肌の白さを引き立てていた。
まるで彫刻のように整っていた。
そして夕焼けを見上げていた。
「何?」 │
菖はドキッとした。
その人に声をかけられると思ってもみなかった
まぁずっと人の事を見ていたのだから声をかけられて当然だ。
「いやあの・・・。近所で見ない顔だなって・・・
最近引っ越してきた? そうだ俺は長谷川 菖だ。」
ふ〜んと言う感じでその人は見ていた。
菖は顔が真っ赤になってしまった。
今が夕方で顔が赤いのが分からない事に菖は感謝した。
「そう。今日引っ越して来た。
私は水無月 紅葉 (ミナヅキ クレハ)。」
「紅葉って中学だよな。俺中2だけど紅葉も中2か?」
「うん・・・。そうだけど。」
「私立とかじゃないだろ?同じ学校かもな。」
「じゃあ 私帰るから。」
紅葉は思った。どうして彼はこんな笑顔を自分に向けるの。
彼の笑顔を見てると苦しくなる。
もしかしたら彼を・・・
これ以上彼と一緒にいてはいけないと・・・。
第二章 重なり合う奇跡 神様の悪戯
そして次の日・・・。
めずらしく菖は学校に遅刻せず登校した。
ほかの人から雨でも降るんじゃないの?と言われた。
それくらい菖が遅刻するのは日常茶飯事なのだ。
ガラッ ドアが開き先生が入ってきた。
「今日は転校生が来た。おい 自己紹介してくれ。」
「水無月 紅葉です。よろしく。」
・・・・。クラスはシーンと静まりかえった。
紅葉はとても綺麗だ。菖が見入ってしまうくらい・・・
男子はもちろんのこと女子ですら紅葉に見入ってしまった。
「水無月の席は・・・そこ空いてるな。」
紅葉はハッと思った。菖と同じクラスだったからだ。
彼とだけは一緒になりたくなかった。
席に紅葉は座った。 ガラッ 先生は出ていった。
わっ・・・・。
先生が出ていったとたん紅葉の周りに人が集まった。
「ねぇ モデルとかやってる?」
「何処に住んでるの?」
紅葉は質問責めにあった。
転校生でしかもこんなに綺麗なのだから
質問責めにあってもしかたない。
紅葉は嫌だった。人と話すのは好きじゃない。
友達・友情・・・。そんなの大嫌い。
そんなの存在しない。だから・・・
紅葉がここに転校してから2週間ほどたった。
紅葉は2週間もすれば少しは静かになると思った。
しかし全く反対のことが起こった。
紅葉は頭が良かった。それに運動もよく出来た。
そして容姿は文句の付け所のないくらい美しい。
紅葉は好んでいなかったが学校のアイドルになってたのだ。
男子どころか女子の中でもアイドルだった。
もちろん男子から何度も告白された。
ラブレターなんか毎日大量にくる。
けれど紅葉はだれに告白されても全て答えはNO。
ラブレターは見ることもせず捨ててしまう。
でもかといって嫌われなくよけい人気が出てくる。
ミステリアスで素敵と思われてるらしい。
第三章 回り始める 運命の歯車
ある日授業が終わり家に紅葉は帰ろうとしていた。
どうしてこうなるのだろうか・・・。
周りにはたくさんの人がいるのだ。
ストーカーと言ってもいいかもしれない。
「おっ。紅葉!!一緒に帰ろうぜ。」
菖が声をかけた。
紅葉は極端に人と話すことを拒むのだがその中では菖と
一番よく話している。
しかし話すといっても普通の人で考えれば少ないが・・・
話すというよりも菖がよく話しかけるというのが正解だろう。
「あっ長谷川君。別にいいけど。どうぞご勝手に。」
「そうか。じゃあ一緒に帰る。」
菖は正直驚いた。こんなに簡単に紅葉と帰れるなんて・・・。
「あのさぁ〜紅葉。お前に話したいことがあるんだけどさ。
今日空いてる?」
「うん。空いているけど。」
「詳しくは電話で話す。」
「トゥルルルル〜」
電話が鳴った。紅葉は電話をとった。
「はい 神無月です。あっ長谷川君。」
「紅葉か。さっきのこと何だけどさ六時に
丘の下公園に来てくれないか?」
「いいよ。丘の下公園に六時だね。」
カチャッ 電話を切った。 │
はぁ・・・。六時か。今五時だから一時間か
一時間あれば用意出来るかな。
│
第四章 冷たい微笑み 暴かれる過去
「来るかな。紅葉。」
あと五分・・・。十五分前に来たから十分待ったのか。
菖はものすごく緊張していた。心臓の音が聞こえきそうだ。
「あっ長谷川君。」
紅葉が来た。
「それで話って何?」
「いやあの・・・」
菖は顔が真っ赤だ。紅葉は菖が言いたいことが分かった。
「好きだ・・・。」
「そんなの見れば分かる。でも私は・・・」
「人と関わるのが嫌なんだろ。それは分かってる。
それも承知で紅葉が好きだ。」
クスッ紅葉は笑った。
笑うといっても暖かくなるようなものではなく
背筋が凍るような冷たい笑いだった。
紅葉は何かが違った。前とオーラが違った。
なんだかすごく悲しみと残酷さに満ちていた。
殺気・・・。そういうものを感じた。
「じゃあ 私がどんな風でもいいの?
たとえばもし殺人をしたことがあっても。」
紅葉の言葉は冗談に思えなかった。
言葉は冷たく人間のものとは思えなかった。
「えっ 殺人をしたことをって。もしかしてお前。」
「そうよ。昔。えっと小学校の頃だったかな。」
菖は言葉を失った。怖い。そう思った。
「本当かよ。嘘って言ってくれよ。」
「本当だよ。それから私は施設に入れられたの。」
施設・・・。そう思えば紅葉は両親と全然似てなかった。
あれは施設の人なのか。
「なっなんでそんなことしたんだ。」
紅葉は少し暗くなった。聞かれたくないのだろう。
「私の本当の両親は二人とも金持ちだった。
でも両親は離婚した。そして私は母に引き取られた。
それで その間は良かったんだ。母と二人で居たころは。
少ししてから母は再婚した。
でもね母は交通事故で亡くなったんだ。
母はいつ死んでも良いように遺書を書いてたんだ。
そこにはこうあったんだ。
全ての財産を自分の子供に譲ると。 │
そして何千万という遺産を貰った。
このあとも聞く?」
│
菖は固まっていた。いきなり衝撃的なことを聞かされたから。
コクンと菖はうなずいた。
「母は事故死と思われていた。でも本当は違ったんだ。
義父が母が死ぬように仕掛けてたんだ。
母とは財産目当てに結婚したんだ。
それで私は義父を殺してしまったんだ。
それから私は施設に入れられたんだ。
私は外にも触れなきゃいけないからって学校に入れられてる。」
菖はショックを受けた。自分は何も変わらない普通の家庭だから。
それにそれをまるでロボットのように
感情を込めずに言っている紅葉にも・・・。
菖は紅葉を抱きしめた。
「もうお前は悲しまなくていい。
俺は普通の家だからそういうことはない。
でも絶対に悲しませないから。」
紅葉は菖を突き飛ばした。
「口先だけじゃいくらでも言える。そんなセリフ何度も聞いた。
それはすべて嘘だった。」
「嘘じゃない。本当だ。」
紅葉はクスッとまた笑った。冷たい凍りつくような笑いを。
菖は寒気がした。こんな冷たい笑い見たことなかった。
「最後くらい夢見させてあげる。」
紅葉は菖の頬に軽く口付けをした。
菖は耳まで真っ赤だ。一瞬の間だったが菖にはすごく長く感じた。
「さっ最後くらいってどういうことだ。」
「すぐに分かるよ・・・。」
第五章 赤いナイフ 犯した罪
「うっ・・・・」
菖は倒れた。ナイフで刺されたのだ。
抜いたナイフからは赤い血がついてる。
「大丈夫。急所ははずしといたから。
まっこのままだと死ぬけど。」
綺麗な赤。そう言ってナイフに着いた血を見ていた。
別人のように紅葉は変わってしまった。
紅葉の瞳には何が写ってるのか・・・。
「なんで俺を殺すんだ。
それにお前は捕まる。どうしてこんなことしたんだ。」
菖は息が苦しくなっている。服が赤く染まっていく。
「私が君を殺したなんて思わないとおもうよ。
ほら今、巷を騒がせてる 連続無差別殺人犯がやったと
警察は考えるよ。
なんで君を殺したかって それは君が邪魔だから。
私はどこかに行く。遠くのどこかへ。自分を探したいの。
でも君を思い出すと自分が自分じゃいられられなくなるから。
だから・・・・」
紅葉は自分の携帯を取り出すと警察に電話した。
人が刺されてると。
「これで君は助かるよ。私が刺したというのも君の自由。」
「なっなんで警察を呼ぶんだ。」
「さぁね。私は帰るよ。」
エピローグ
紅葉の陰が遠くなっていく。
パトカーのサイレンが聞こえてくる。
「沢山の人がうごめくメトロポリス 。
こんなところじゃきっと自分を探せない。」
紅葉は呟いた。紅葉の瞳は虚ろでどこかを見ていた。
「ご め ん ね 」
その言葉が紅葉の口からこぼれた。
小さな消えてしまいそうな声が。
紅葉の瞳から涙が流れた。
「私にも涙が残ってたんだ。悲しむことが出来たんだ。
あの時すべて涙を流してしまったと思ったのに。」
終