f02
宇宙海賊
キャプテングレイ
作 めいおう星人
<プロローグ>
宇宙歴3702年7月3日、
この日、全惑星の政府が宇宙海賊に対する討伐を決めた。
それから4年………、この物語が始まった。
<第一章
『海影』実験隊結成>
宇宙歴3706年7月3日、今日は海賊なら誰でも休みを取りたいと思う日である。開戦記念日で全てが50%も安い戦時前の物価になるのだ。この日に休めるかどうかは、くじによって決まるのだが、グレイは船の中にいた。彼は海賊軍きっての凄腕のパイロットなのだが、それが災いして、くじを引かせてもらえなかったのである。その代わりに、少尉から中尉に階級を上げられ、新型RO(いわゆるロボット)GNレッドのパイロットとして、実験艦『海影』に配属されたのだ。この艦は、将来、自分たちの地位を脅かすかもしれない存在を消す目的で、軍の高官達が作ったものらしいなどと、色々と噂が絶えない船である。GNレッドにしても、自軍の優秀なパイロットや士官の居所と引き換えに、敵である政府軍の技術提供を受けたらしいなどと囁かれている。
ピーィィィィィィィと音が鳴り、『各自ブリッジに集合せよ。』との放送が流れた。また、お決まりの顔合わせを始めるのであろう。ブリッジに、この艦の面々が集まった。
「まず、私から言おう。名前はニコライ、ニコライ・ホフマン。階級は大佐。本艦の艦長である。」グレイの左にいる髭面の士官が言った。その身体からは歴戦の強者であることを物語るオーラが漂っていた。
「私ノ名前ハ、ピーター1号デス。ロボットデス、ヨロシクオ願イシマス。」少尉の階級証を付けたロボットが言った。
「オレの名はジャック・ウィルソン、少尉だ。それと、整備兵は要らないぜ。整備は、自分でやる。」この男からは豪快な、それでいて繊細なオーラが流れている。
その他に気になったのは、まず平均年齢が約38.9歳という中で、ただ一人、20歳だと言うルル・フォックス1等整備兵だ。彼女の自己紹介はこういうものだった。「私の名前はルル・フォックスです。階級は1等整備兵です。」余りの若さに、そんな奴に任せられるのか?
と、不安になる者もいた。彼女もそれを察してか、「これでも、1級RO整備資格、1級武装整備免許、1級…………。」と続けた。永久に終わりそうも無く思えたが、艦長の「もういい、君が優秀なのはよく分かった。」と言う一声で、ようやく話が終わった。
次に、リック・アンダーソン1等通信兵。彼の自己紹介中に、いきなり政府軍の放送が流れてきた。『私は、政府軍大元帥アルフレッド・グーデンベルグ、海賊軍どもに告げる。我々政府軍は、1年以内にこの闘いを終わらせる。政府軍の威信と名誉にかけて、絶対に、だ。』この放送が終わるや否や、2つの声が入り混じって聞こえてきた。「まったくもって、失礼な奴等だ。人が話しているのに。」この言葉が印象的だった。この声からは、凄い威圧感が感じられる。艦長養成コースに入っていれば、きっと良い艦長になっただろうに…と、グレイは思った。
もう1つの声の主は、違う意味で興味をもった人物だ。名前はカルロス・ツダ、日系人で階級は1級操縦士だ。彼はこう言ったのだ。「うむ、敵の船は『神龍』、L型の戦艦だな。」グーデンベルグの乗る艦は、政府軍でも1級機密とされている。それにもかかわらず、そんなことを知っているとは、よほどの戦艦バカであろうと、グレイは思った。
そして、最後にグレイの番だ。「私の名は、グレイ・カッシュ、今日付で中尉に昇格したばかりだ。」グレイがそう言った瞬間、艦の中は驚きと歓声に包まれた。何しろ、グレイは『キッドの再来』とまで言われている、有名なエースパイロットなのだ。
『キッド』とは、歴史上、2度ほど登場している人物で、その活躍ぶりは、今なお伝説として語り継がれている。
それから数時間後、グレイの部屋のベルが鳴った。「誰だ。」グレイは尋ねた。「フォックス一等整備兵です。お渡したいものが有って参りました。」彼がドアを開けると、ルルは、「今度、GNレッド1号機の担当整備兵になりましたルル・フォックスです。よろしくお願いします.」と言った。「ああ、機体に、リヴァイアサンのマークを付けておいてくれ。で、渡したい物って?」グレイは、尋ねた。「あっ、私の経歴書です。グレイ中尉も心配されているのではないかと思って……。」経歴書を手に取り、「お互い気楽にやろうぜ。堅苦しいのは抜きだ。」グレイがそう言うと、彼女は「了解、それでは。」と一礼して去って行った。
経歴書に目を通して、グレイはあることに気がついた。
ルル・フォックス、整備士養成学校 飛び級にて1年で卒業
その後、実験艦『海影』に配属される
(それなら、16のはずではないか。)慌ててドアを開けた彼の目の前に、ルルが嬉しそうに立っていた。「ふふっ、驚きました?本当は、私、まだ16なんです。内緒ですよ。」そう言うと小走りに去っていった。何故嘘をついたのか聞いてみようと思ったが、彼女の(考えてみれば判るでしょ。)と言うような顔を思い出しやめた。確かに彼は人の秘密を喋るような男ではないが、たった数時間でそれを見抜くとは、よほど感が鋭いのだろうか。そんなことを考えながら、グレイは戦闘シミュレーションルームへ向かって歩き出した。
<第二章 宿命の出会い>
7月28日、政府軍M級戦艦『紅』、その中で密かに闘志を燃やしている男がいた。彼の名はイワン・スコイヴィッチ。少尉でありながら、父親のレオナール・スコイヴィッチが造った新型RO、BIのテストパイロットをつとめている。新型RO、BIとは遠距離砲撃用に造られたもので、海賊軍レーダーの最高探知範囲、965.586mを上回る1050mからの砲撃が可能である。彼は、何故こんなにも闘志が噴き上がるのか、不思議だった。1度目の時よりも今回の方が、とは言ってもまだ2度目なのだが、はるかに高揚しているのがわかる。今回の相手が海賊軍の新造艦と新型ROだということも有るのだろう。しかし、それ以上に何かを感じていた。
それと同じ頃、『海影』は目的ポイントのY3エリアにいた。Y3エリアの防衛隊、ドクロ級駆逐艦『未来』と『古城』に合流しての会議は終わったのだが、互いの艦長が知り合いということもあって話が盛り上がっている。「いったい、なんでこんな所に配備なのかね。」とヘンリー・アッシュ少佐が言うと、「老朽船は、『海影』と共に散れってことなんだろうよ。」とボブ・ハーマンは静かに返した。当のホフマン大佐が「全く持ってけしからん。なんで、上は有能な者を消そうとするのじゃろうか。」と言いかけると、「盗聴器が仕掛けてあったらどうするんだ。」ヘンリーが慌てた様子で話しを遮ろうとした。すると、格納庫のほうから「大丈夫ですよ。この艦の盗聴器は、全て取っておきましたから。」というフォックス1等整備兵の若々しい声が聞こえてきた。その時、「敵影確認!! 距離1065m、数は約25。電磁波が強いため、これ以上の判別は不可能。」とリックが叫んだ。この艦には、政府軍がまだ知らない最新鋭の高性能レーダーが搭載されているのだ。
「ルル!! 今こいつの装備は何にしてある!」グレイの声が1番滑走路に鳴り響く。「対艦装備です。」とルルが答えた。「OK、3号機はアンテナを付けて駆逐艦の援護に向かえ。1号機発進する!」グレイは飛び出した。「オレも発進するぜ。」とジャックの2号機も後に続いた。
「敵艦の機種は判ったか。」グレイがリックに聞いた。「L戦が2、M戦が4、M巡が6、S巡が8、S駆が4。(説明しておくが、LMSと言うのは大きさ、戦巡駆というのは種類である) 半分が右、残り半分が左に散開中。」右には駆逐艦2隻がいる。彼らもドクロイゾ(海賊軍の一般ROである)を発進させたはずだ。「3号機、右に向かって指揮を取れ。」グレイはピーターに命令した。「了解シマシタ。」とピーターは答えた。敵のL型戦艦に向かう1号機の頭上に、敵の一般RO、Cブルーが斬りかかろうと迫ってきた。しかし、Cブルーの攻撃は1号機に届くことは無かった。その瞬間、2号機の発射した弾がCブルーを貫いたからだ。
「頼む…、当たってくれ。」BIのコクピットの中でイワンは呟いた。「狙いは……、あれだ!!
」照準は『古城』にぴたりと当てられていた。
その頃『古城』艦内では、「艦長!
正面に砲弾が……。狙いは…本艦、ブリッジ。避けられません。」ヘンリーは(もう、終わりだな。)と思った。
「『古城』ガ被弾シマシタ。敵ノ位置ヲ教エテ下サイ。」ピーターが言った。「…………1046.36m先です。方位11時の方向。」「コチラカラハ無理デス。グレイ中尉、頼ミマス。」グレイがその声を聞いたのは左側のL型戦艦を破壊した時だった。「ウィルソン、後を頼む。」
イワンは次に、駆逐艦『未来』を破壊した。敵レーダーに映るはずが無いということで、イワンは油断していたのだろう。目の前に敵の新型が迫っていた。「弾っ、弾丸を!」彼は焦り、この距離では撃てないことを忘れて攻撃しようとしていた。
「こいつ、新米だな。」そう呟きながら、グレイは1号機の鉄剣を振り下ろした。が、その剣は空を切った。敵が爆発の余波で飛んできた『未来』の破片に当たったのだ。グレイは再び攻撃をした。「なに、外れた!!」グレイは目を疑った。敵機が、バーニアを噴射しながら逃げていくのが見えた。
「ふぅ〜、助かった…。」イワンは破片に当たった衝撃で、偶然にもバーニアのスイッチに触れたのだった。彼は誓った。肩にリヴァイアサンのマークが付いた奴に絶対勝つことを。1ヶ月半後、彼は自分が政府軍のブラックリスト、第2位と戦っていたことを知ることになる。イワンの次の任務は、月への補給艦の護送であった。
少しずつだが、運命の歯車が回り始める………。
<第三章 エリコ・シングウジ>
8月13日、「お前の目標は何か?」ミーティングルームから声がする。「あいつを倒すことです。」即座にイワンの声がした。「あいつとは誰か?」再び声がした。「グレイ・カッシュ!!
奴に、この間の戦闘の借りを返したいのです。」ミーティングルームに笑いがこだました。「ハッハッハッ、あいつと戦って生き延びただと、この若造が。本当かどうか怪しいもんだ。」「自分は、……闘わずに逃げました。しかし、会ったのは本当です。シングウジ大尉。」シングウジと呼ばれた女が言った。「なぁ、みんな、その腕前、見せてもらおうじゃないか。全員退室せよ。」
その少し前、『海影』艦内では、今回の作戦について議論が交わされていた。「何故あいつを一人で行かせたんだ。」ジャックが聞いた。「しょうがなかろう。ご指名なのではな。」ニコライはそう言い返した。「月の攻略には人員は裂けないと言うわけか!!」
数時間後、「月で戦闘だと!!」エリコが叫んだ。「出撃しろ、スコイヴィッチ少尉。その腕前、見せてもらうよ。」微妙に皮肉が込められているようだった。(それにしても親父もたいしたもんだよ、たった1ヶ月半で新型を作っちまうんだから。)イワンはそう思っていた。「イワン機、発進する!!」イワンのBUが飛び出した。「あの野郎、また出やがって。」イワンは闘志をみなぎらせていた。
BUから送られてくる映像を艦内モニターで見た瞬間、エリコは、「敵は、『キッド』の再来じゃないか。わたしも出撃する!!
後の奴等は艦の護衛、いいね!!」と命令を下した。 (こいつ、やっぱし強いぞ……。)イワンは思った。BUには中距離用レールガンが標準装備してある。イワンはそれを生かした戦法を行っているのだが、やはり敵わない。
(こいつ、あの時のか。ずいぶんと腕を上げたようだが、まだまだだな。今のうちにたたいておかねば……。)そう思いながらグレイは闘っていた。
「なかなかやるじゃないか。」エリコは2人の闘いを見ていた。(ここで死なすには惜しいな、やばくなったら助けてやるか。)
「くっ!!」イワンは唸った。弾切れが起こったのだ。グレイはこの機を見逃さなかった。BUは足を切断された。「逃げな。ここは私が食い止める。」エリコの声が聞こえた。「分かりました。」イワンは、また逃げ帰るはめになってしまった。
「『海影』被弾!!
航行できません。」カルロスが悲鳴に近い声を上げた。「不時着しろ!!
」ニコライが命令する。「もうしようとしています!!」
「『海影』が沈んだぞ。どうするピーター。」ジャックが三号機に通信をかけた。「当然助ケニ行キマス。」「その前に、この状況をなんとかしなくちゃいけないけどな。」周りを敵に囲まれたのを見てジャックが言った。「ハイ、何トカシマス。」
「なに!!
『海影』が沈んだ。分かった。そちらに向かう。」『海影』からの通信にグレイは答えた。(しかし、この相手じゃ迂闊に動けないぞ、どうする。)グレイは考えていた。その時、一瞬の隙ができた。「もらった!!」エリコが攻撃を放った。しかし、1号機はそれよりも早く反応し、かろうじて命中を逃れた。「左腕をやられたか、不利だな。」今の攻撃でボディーバランスが崩れてしまった。それが致命傷になることもある。手強い敵であれば尚更だ。「オラオラオラオラオラ!!」その掛け声と共にシングウジの機体、ブルーSが攻撃をかける。「どうした、『キッド』の再来。お前の腕はその程度のものか!!
」その時、1号機の前を隕石が通ろうとした。「これだ!!」1号機は右腕と引き換えに隕石を粉々にした。 「くっ、みすみす目の前にいる敵を逃がさねばならんとは。」隕石の破片で、ブルーSのレーダーは不調、視界も悪い。追うとなれば、機体の損傷は必死である。追撃は断念せざるを得なかった。
それと同じ頃、「クソ!!
弾切れだ。残るは肉弾戦か……。」ジャックが叫んでいた。「コノ数ノ相手ニ接近戦ハ無謀デス。」ピーターが答えた。「ワタシノ機体ニハ実験用ノシールドガ付イテイマス。ココハ、ワタシニ任セテ行ッテ下サイ。」「馬鹿野郎!!
てめえだけ置いて行けるかよ。」ジャックが言った。「アナタハ一人ト、船員全員ノ命ノドッチガ大切ナンデスカ。」その言葉には強い意志が込められていた。「分かった……。死ぬなよ。」「イインデス、ドウセ帰ッテモ、分解サレテ、戦争投入事ノ影響ヲ調ベルタメニ、データヲ見ラレ記憶ヲ消去サレルダケデスカラ。ジャック、アナタト居ラレテ楽シカッタ。」「くさいセリフ言ってんじゃねーよ。」2号機は『海影』に向かって飛び出した。「バカヤロー、バカヤロー、バカヤロー!!
」ジャックの眼には涙が光っていた。
「ソウ、ソレデイインデス。」その瞬間、シールドの一箇所が破られた。「モウ長クハモタナイデスネ。」
「RO
2機が『海影』に接近中。」カルロスが言った。「もう終わりか……。」ニコライの声に、「いえ、グレイ機とジャック機です。」カルロスは嬉しそうに続けた。
「おい、カルロス、腕をやられた。修理を頼む。」『海影』のハッチが開き、1号機が着艦した。
「こっちも弾切れだ。」2号機も、もう片方のハッチから進入する。
「ジャック、サヨウナラ。」その瞬間、3号機のコクピットは跡形も無く吹き飛んだ。 「うおおぉぉぉ!!
」その声とともに補充を済ませた2号機が弾を撃ちまくっていた。「ピーターの仇、オレが取ってやる!」
「あんな闘い方では勝てんぞ。」グレイは修理中の1号機の中から戦況を見ていた。「まだか。」「まだ、右腕だけです。」ルルが答える。「十分だ。発進する。」「くっ、しまった。銃を忘れた。」グレイほどのパイロットが銃を忘れるとはよほどの事である。しかし、いまのグレイはシングウジとの闘いで精神をすり減らした後である。「こうなったら!!」1号機は地面を思いっきり蹴り上げた。数々の破片が飛び散る中、1号機はそれを掴んで投げつけた。
そして10分後、月攻略作戦は成功したとの知らせがはいる。我々は生還できたのだ。
<第四章 転 属>
「アナタハ一人ト、船員全員ノ命ノドッチガ大切ナンデスカ。」その言葉には強い意志が込められていた。「分かった……。死ぬなよ。」
「うわぁぁ!!」ジャックは目を覚ました。「なんであの時、オレは………。うおぉぉぉぉぉぉ。」
「こいつが海龍型の新造戦艦『希望』か……。」目の前にある艦をニコライは眺めていた。彼以下、元『海影』乗員59名は次の出撃でこの艦に乗ることになっているのだった。 ジャックは永久保存艦となった『海影』の一室でピーターの手紙を見つけ、読んでいた。
ジャック、アナタガコノ手紙ヲ読ンデイルトイウコトハ、私ガ戦死シタトイウコトナノデショウ。私ハ、始メテ私ヲ心配シテクレル人間ニ会イマシタ。アナタト居ラレテ楽シカッタデス。アリガトウ。いつのまにか、ジャックの目には涙が溢れていた。「お前の仇は取ってやるからな。相棒。」
「へへっ、これでようやく海影隊に入れるぜ。」YF人工惑星の2番地でその若者、アーサー・ヘインズは満足そうに言った。将来、ジャックとパートナーを組むことになる者である。「なんでわざわざあんな所に……。」彼の親友のウィーゲル・バングスは、少々あきれ気味に聞いた。すると、アーサーは「昔、Y3ポイントで助けてくれたピーター少尉とチームを組みたいんだ。」「あれ?お前、知らねーの。ピーターって奴、戦死したって話しだぜ。」ウィーゲルの言葉に、アーサーはその場で立ちすくむしかなかった。
「速すぎるぞ!!
もっと遅くしろ。」エリコは叫んだ。「わかりました、隊長。」答えたのは、エリコ・シングウジ大尉のおかげで新型のテストパイロットになった、イワン・スコイヴィッチである。その光景を影から見ている人物がいた。「何故、シングウジ大尉はあんな若造とコンビを組むんだ。」エリコの元パートナー、オデル・コットマンは感情を押さえた低い声で呟いた。
そして、出陣……。
<第五章 暗闇の死闘>
月攻略作戦の成功により、新型ROの開発工場が新たに発見された。それを攻めているのは『第三十一攻撃隊』、すなわち『新海影隊』である。
上から銃声が鳴り響く。アーサーとジャックの陽動である。
グレイは急いでいた。ここが敵の最重要施設である以上、警備は堅いはずだ。一刻も早く、GNレッド1号機を地下の発電施設へ到達させねばならない。
地上で2機のGNレッドと闘っているのは、オデル・コットマンである。右側のパイロットが誰なのか、彼には分かっていた。ROの右手にガトリングガンを着けているのは世界広しと言えども、ジャック・ウィルソンしかいない。『ガンマスター』と異名をとる男だ。オデルの脳裏には、ある思いが浮かんでいた。(あいつを倒せば、必ずシングウジ大尉は振り向いてくれる。)オデルのRO、ブルーSはシングウジ大尉から貰った機体で性能はいいが、操縦性にクセがある。飛んでくる弾を避けながら、彼はGNレッド2号機へと向かっていった。「もらった!!」オデルが勝利を確信したその瞬間、彼は息絶えた。 「やりましたよ、ウィルソン少尉。」たった今ブルーSを鉄剣で切り裂いたばかりの4号機から通信が入った。「馬鹿野郎!!
油断するな。」ジャックはアーサーに檄を飛ばした。
その頃、グレイは発電施設を前方に見つけていた。しかし、迂闊には近づけない。(赤外線センサーに電動式地雷か、ご丁寧なこった。)刻々と時が流れるなか、グレイは息を潜め、狙いを定めていた。「そこだ!!」GNレッド1号機の弾は狙いどうりに目標をとらえ、発電施設の機能を停止させ、照明を落とした。と同時に、暗視装置の付いた1号機のメインカメラが何者かに撃ちぬかれた。
地上は突然の停電に混乱した。「慌てるな、落ち着け!!」地上部隊の副リーダー、ゴメス・サンドマンが叫ぶ。「ふ、副長。」部下達が落ち着き始めたのも束の間、ゴメスからの通信が途絶えた。
グレイは暗視装置の付いていないサブカメラに切り替えた。レーダーを見るが、レーダーからは雑音しか聞こえて来ない。(妨害電波か……。)勘を信じ、機体を右に移動させる。金属音がし、左手の損傷を示すシグナルが鳴る。(暗闇に乗じての攻撃…この作戦、読まれていたか。)次の攻撃をかわした1号機に衝撃が走る。接近する機体とは別にもう1機、遠距離攻撃タイプがいるらしい。(はさまれたか!!
やばい………。)
「こっちはあらかた片付きましたね。」アーサーが言った。「グレイが心配だ、…行くか。」ジャックがそう言いかけた時、『希望』から通信があった。「なんだって!!」ジャックは驚きの声を上げた。
敵の砲撃手はイワンである。グレイがシングウジ大尉の切りかかりをかわした瞬間に、バズーカをおみまいする。それがイワンの役目だ。今度もグレイはかわした。突然、閃光がイワンの視界を遮った。(しかし、あの位置にいるはず。撃つ!!)閃光弾が消え去ったあと彼の視界に飛びこんできたのは、シングウジ大尉のコクピットの無い高速移動型ブルーSだった………。
「きさまぁぁぁぁぁ。」コクピットを貫いたのはイワンのBUである。だが、それに気づかないイワンは怒り狂った。
<第六章 怒りの果てに>
グレイは、接近してくる機体があることに気が付いた。鉄剣を構えたところにいきなり、イワンがバーニアをふかしながら突撃してきた。グレイはわざとバランスを崩し攻撃をかわすと、すぐに体勢を立て直しBUの左手に切りつけた。それを肩で受け、瞬時に攻撃に移るイワン。その攻撃が1号機の顔を潰す。同時にBUの左手も宙に舞った。再度切りかかるイワンの刃を奪い取り、遠くへ投げつける1号機。その左足をBUの右手から伸びていたもう一方の刃が貫く。(仕込み刀か!!)
その時、ジャックからの通信が入った。「大変だ、グレイ!もうすぐ地下にある大量の爆薬が爆発するらしい。早く逃げるんだ!!」(くっ、逃げろと言われても、この状況では……。)次の瞬間、停電していた地下に照明が戻った。いきなり明るくなったことにとまどう、イワンのその一瞬をグレイは見逃さなかった。GNレッド1号機の背後に装備していた煙幕弾を投げつけ、煙幕を立ち上らせる。敵も自分も妨害電波の影響でレーダーは使えない。だが、グレイは地上への道順を覚えていた。1号機は地上に向かって走った。かすかに見えるGNレッド1号機を追って、イワンもその中へ入って行った。
グレイは、月面基地に停泊している『希望』艦内の自室にいた。なんとか脱出に成功したものの、その直後に爆発が起こり、追ってきたBUと共に爆風に飛ばされてしまったのだ。グレイは、幸運にも近くにいた『新海影』に救助してもらうことができた。が、BUの行方はわからない。(あいつはどうしただろうか……。)グレイは格納庫へと向かって行った。
「修理、出来そうか。」グレイが聞くと、ルルは「修理するよりも新しい機体を請求した方が早いですね。」と答えた。「分かった。この基地の司令官に話して来る。」グレイが立ち去ろうとすると、「もう言って来ました。」とルルが続けた。「で、どうだった?」「『そちらに渡せるのはドクロイゾ(海賊軍一般RO)しかない、最近生産を開始した量産型GNレッド、つまりGレッドはまだ数が少なく、とても実験部隊なんかにまわせないんだよ。』だそうです。」とルルは顔色こそ変えなかったが、かなり怒った様子で答えた。「そう怒るな。ドクロイゾでも十分だ。」グレイがなだめると、「いいえ、私が絶対に『キッドの再来』に相応しい立派な機体に修理してみせます。」と意気込んで言い、ルルは格納庫から出て行った。
<第七章 地球降下>
10月5日、海賊軍の地球降下作戦が始まった。1ヶ月前までは政府軍の最後の砦であったRE人口惑星から、地球降下用のシャトルとその護衛艦隊が発進する。29降下隊の護衛任務にあたっているのは、海龍型戦艦『希望』、津波型巡洋艦『朝霧』、同じく津波型巡洋艦『流麗』、その他に駆逐艦3隻であった。これらは最も抵抗が激しいと思われる政府軍本部近郊への降下ルートに向かっていた。
そして10月6日、地球軌道上に29降下隊は到着した。降下終了までは6時間かかる。30分交替で各艦のROが警戒し、敵の攻撃に備える。2時間49分後、未確認艦隊接近の報告が各艦に入った。警備をしていた『朝霧』のドクロイゾ4機が交戦しているが、次々にやられていく。いち早く出撃準備が整った『希望』からジャック達のROも出る。ジャック達が到着した時、『朝霧』のドクロイゾは半分に減り、シャトルもまた1隻大破していた。やや遅れてグレイのドクロイゾ(ルルの修理が間に合わなかったため)と竜巻型駆逐艦『猛将』のドクロイゾ3機が到着した。(
ブルーC《政府軍の一般RO》ばかりだな。確かに数は多いが、こんな戦力で我々に勝てると思っているのか?)その時、グレイの脳裏をある考えがよぎった。
その頃、地球では……
「こんなのシュミレーターには無かったぞ!!」地上に降下した29降下隊、Gレッドのパイロットの一人は思わずそう叫んでいた。思いはみな同じだったろう。この日、政府軍の拠点がある北アメリカ大陸北西部はどしゃぶりの雨だった。多くのシャトルが降りたったところはひどくぬかるんでいるうえ、経験したことの無い地形である。精鋭であるはずの彼らも苦戦を強いられていた。それに比べ、政府軍はしっかりした土台の上に機体を置き、こちらが動きづらいのを知り遠距離攻撃をしかけてくる。これほど嫌な攻撃は無かった。善戦しているパイロット達も、風神のマークを付けた機体を見事なまでに操縦している一団に撃破されていく。「くそっ、奴はいなかったか…。」エリコの遺志を継ぎ、名実ともに『新風神』となったイワン・スコイヴィッチはつぶやいた。彼はあの後、生き残った風神隊のメンバーをかき集め、新風神隊を結成した。無論、一悶着はあった。しかし、彼らは政府軍選りすぐりの部隊として、北アメリカ大陸北西部に配備されたのだった。
グレイの予想が的中した。大気圏付近は電磁波が強く、通信やレーダーが使えない。だから目視以外では敵が大気圏の近くにいても確認できないというわけだ。敵艦が1隻、大気圏の近くを通りやって来ている。このことはグレイしか気付いていないし、彼も大気圏に近づきすぎたため交信が出来ない。大気圏の近くを通過できる艦があるなど今まで誰も聞いたことが無かった。シャトルが全て降下するまで、あと38分24秒。敵壊滅が目的ならば、このドクロイゾでは不可能に限りなく近いかもしれない。しかし、これは時間を稼げば良い任務だ。グレイに勝機はあった。グレイはバズーカで敵艦を攻撃した。もちろん大気圏の熱で爆発したが、弾頭には通常の2倍の火薬が仕込んである。敵は装甲に傷がつくと熱に耐え切れないのか、慌てて大気圏付近を抜けROを出して来る。これで味方も気付いたはずだ。援軍が来るだろう。グレイは敵に向かってバズーカを再度構えた。敵はあの時の新型、ブルーS。しかし、敵艦の収容力のせいなのか、それとも生産数が少ないのか分からないが、その数は意外なほど少ない。こうして16分43秒の攻防が始まった。
<第八章 愚かなる終焉 (前編) >
宇宙歴3707年6月30日、後に『宇宙海賊の乱』と呼ばれる闘いに終止符が打たれようとしていた。しかし、この戦いには歴史上、決して語られることのない真実が存在したのだった。
地球降下作戦の失敗により痛手を受けた海賊軍は、その後の政府軍の猛攻に耐え切れず、本拠地である人工衛星『ZX』まで撤退していた。
政府軍最前線基地、人工衛星『XX』では、急造された『大元帥室』において極秘の会話がなされていた。「今のままでいけば、一ヶ月後には海賊軍の拠点を攻め落とすことが出来ます。」若い司令官は言った。「それでは駄目だ!!
私は7月3日までに奴らを倒すと言ったのだ。」政府軍大元帥グーデンベルグは怒鳴った。「お言葉ですが……。」司令官は困惑していた。さらに、グーデンベルグは言葉を続けた。「貴様の言いたいことは分かっている。だが、私は『あれ』を使おうと思っている。」衝撃を隠せないまま司令官は叫んでいた。「『あれ』ですって!!
そんな物を使ったらどうなると思うのですか?だいいち、そんなものがどこにあるっていうのですか?」「宇宙歴0023年の廃棄衛星がね、見つかったんだよ。」グーデンベルグはこともなげに言った。「ま、まさか、その中に……。」「さあ、出陣準備を始めるぞ!!」グーデンベルグはそう言うと、立ちすくむ司令官を残して部屋を後にした。
次の日、一つの噂が政府軍内に広まっていた。噂が真実であると確信したイワンは司令室へと向かった。
人工衛星『ZX』はいつも以上に静かさを保っていた。全国民がテレビに集中している。「我々は今、最後の闘いに挑もうとしている。」海賊軍総大将ブレックス・アーリマンが壇上で演説をしていた。その演説に人工惑星中から歓声があがった。
司令室で事のあらましを知ったイワンは作戦への参加を申し出た。「いいのか。君は大変優秀なパイロットだ。どこで知ったのか知らないが、下手をすれば、いや、確実に命を落とすことになるぞ。」司令官は念を押すように言った。「分かっています。だからこそ、奴はそこにいるんです。」イワンの決意は揺るがなかった。
グレイは、改造された機体のテストをしていたが、まだスピードについていけずにいる。ルルがよほど気合を入れたのか、スピードが格段にアップしていた。機体の名前はまだ決まっていない。(完成直後、製作者のルルが倒れてしまったからだ。)
ジャックはアーサーになにか感じるものがあったのか、もっぱら教官役にまわっていた。そのかいもあって、近頃のアーサーはだいぶ腕を上げてきている。
宇宙歴3707年7月1日、政府軍の宣戦布告により、とうとう決戦の火蓋が切られた。人類は愚かなる終焉に向かって、一歩踏み出したのだった。
<最終章 愚かなる終焉 (後編) >
闘いは中盤に差し掛かっていた。後方の警備に向かっていた『新海影隊』は高速で移動する物体とその護衛らしき機体を発見した。高速移動体に関するデータは『希望』にはなかったので、ただちに海賊軍本部へ転送した。
海賊軍本部内に驚きと衝撃が広がった。「そんな馬鹿な……。もう一度確認してみろ!!」ブレックスの声が響いた。「確認しました。データのものは、『核』です!!
間違いありません。」ブレックスは急きょ『新海影隊』に連絡すると共に、ある作戦に打って出た。
「私はブレックス・アーリマン、海賊軍総大将です。」突然、全宇宙に放送が中継された。「我々海賊軍は政府軍との闘いを終わらせるべく、最大規模の戦闘をいま行っています。その闘いに、政府軍は『核』を使おうとしています。」
政府軍所属の『新龍』型5番艦『白龍』の一室では、「うぬぬ〜、奴らめ。」グーデンベルグが唸っていた。「やはり、この作戦は止めるべきでは……。」司令官がそう進言するが早いか、その額を銃弾が貫いた。「今、何か言ったかね、君。」グーデンベルグの凶行を止める者はいなくなった。
イワンは気が付いた、接近してくる機体の中にあいつがいることに。この作戦を敵軍の暴走に見せかけるため、イワンはろ獲した敵機を使っている。混戦時は敵も味方も分からなくなるというただでさえ危険な作戦だ。そして、自分達が運んでいる物体がさらに危険度を増しているという事実に気付いている者はほとんどいないだろう。それでも、イワンはこの任務を良い仕事だと思っていた。(奴がいる!!)ニセGNレッドに乗り込んだイワンは、グレイの機体に向かっていった。
グレイも向かってくる機体を確認していた。改修されたGNレッド、スカーレットがバーニア全開で立ち向かっていく。
「あれは本当に『核』なのか……。」テレビを見ていた若者がつぶやいた。海賊軍は534チャンネルで戦況を放送していたが、他のチャンネルも急きょ特番を組んだ。
「くらえ!!」ニセGNレッドがスカーレットに攻撃をかける。その攻撃を微妙に変速してかわすとスカーレットは、ニセGNレッドの頭上へ向かった。イワンも上を狙うが太陽の光に遮られる。その隙をつきバーニア全開で急下降し、付加スピード+元々のパワーでニセGNレッドの左肩を切り裂き左手を使えなくした。しかし、スカーレットが優勢とも言いにくい状況だ。彼の機体も右足は付いているが、イワンの攻撃で動かなくなっていた。
GNレッド2号機と4号機は敵の部隊の2/3を倒していた。が、ドクロイゾを模した機体に4号機がやられた。4号機に乗っていたアーサーは脱出装置で無事逃げ出したが、4号機はコクピットだけという無防備な状態になっている。ジャックが4号機を狙う機体に気付き倒そうとしたその時、2号機の持つガトリングガンに一発の銃弾があたった。ガトリングガンは衝撃で使い物にならなくなってしまった。(まぁ、だいぶ使ったからな。もう限界か……。)感慨に浸る間もなく、ジャックは4号機の盾となるべく立ちはだかった。
4号機が安全圏まで逃げたのを確認し、(機体もボロボロ、なら!!)とジャックが態勢を立て直した次の瞬間、ジャックを乗せた2号機は轟音と共に爆発した。
「降伏する!!
核を止めてくれ!!」ブレックスは叫んだ。「駄目だ。私の勝利のために、海賊軍は一人残らず死ななければならないのだ。」(グーデンベルグは狂っている。)ブレックスは肩を落とした。「愚かな……。我々のしてきたことは、こんなことだったのか……。」
海賊軍本部から全員退避の命令が下った。しかし、避難できた船は100にも満たなかった。そんななか、イワンとグレイはまだ闘い続けていた。ニセGNレッドのイワンが剣をふるうと、グレイもスカーレットの速度を上げ突っ込んでいく。イワンの態勢が崩れた。この好機を逃すまいとバーニアを逆噴射し、ニセGNレッドに熱風をくらわすスカーレット。どちらも損耗が激しい。バーニアの燃料が切れた。あとは予備の燃料しか残っていないが、相手も同じらしい。互いに鉄剣を構え、次の一撃に全てを賭けていた・・…。
<エピローグ>
「はぁ〜、今日も良い天気ですね〜。」新米の声だ。『宇宙海賊の乱』から早くも10年が過ぎようとしていた。「なにのんきなこと言ってんの。」熟練のメカニックが顔を上げた。あれから色々な疑惑が浮かび上がったが、政府は報道規制をかけることで、その全てを押さえ込んだ。しかし、結果はより疑惑を深めただけだった。その後、地球に反政府組織が生まれた。「おっ、グリーン整備士さんじゃありませんか。機体の整備はもう終わってますよね。」。「あ〜、はいはい。今すぐやりますよ、アーサー君。」グリーンと呼ばれた新米が言った。「『君』付けは止めろって、いつも言ってるだろう!!」アーサーとグリーンの口喧嘩が始まった。「いいかげんにしとけ。」右足義足の兵士が声をかける。「大丈夫ですよ、グレイ中尉。気にしないで下さい。」熟練のメカニックが笑っている。「おい、おい。喧嘩は止めるもんだぞ、ルル。」「あっ、中尉。いつからここに!!」アーサーがグレイに気付き、尋ねた。「中尉はやめてくれ。ここは軍じゃないんだから。」「へへ〜、中尉でもそんな顔するんだ。」ルルが冷やかした。「だからなぁ〜。」笑い声が広がっていく、穏やかな日差しを受けながら……。
完
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